私はマネーロンダリングに関与した。香港在住Aの告白
あなたはマネーロンダリングという言葉を聞いたことがありますか?
通称「マネロン」。
この言葉は社会一般的には、良いように使われることはまずありません。テロマネー、人身売買、麻薬、武器売買、密売・・・このような犯罪のためにマネーロンダリングは使われるからです。
マネーロンダリングとは資金洗浄の意味で、「違法な手段で得た資金を隠蔽する行為」です。広い意味では「所得隠し、裏金工作」といった意味でも使われます。
今日はそんな「悪徳マネロン」に実際に関与したという、香港在住者Aさんの話を持ち合いに、マネーロンダリングの実態に迫ります。
目次
0.私はマネーロンダリングに関与した
数年前、仲間と2人、人生ではじめて香港に仕事で訪れることがあった。
仕事がメインだったのだけれども、数時間で終わる業務だったのもあり、観光も兼ねて2泊3日で香港の中心地にホテルをとることにした。
香港では一緒にいった仲間の知りあいから、1人の駐在日本人を紹介してもらい、香港の街を案内してもらっていた。
そんなこんなで、ちょうどこの日。タイミングよく日本人が集まるクルーズ船のパーティーがあるということだったので僕達も参加させてもらえることになった。
さすが香港。クルーズ船を貸し切られて行われた船上パーティーには日本人が50人以上と、シャンパン、高級ドレス、そしてマネーの話が転がっていた。
そのパーティーで出会ったのが、香港在住者Aさんだ。
彼はインターネット関係のビジネスで成功して、数年前に香港に移住した20代の男性。一攫千金で成り上がった話をしてくれて、僕達を多いに楽しませてくれた。
彼も最初は自分の武勇伝を気持ちよく語ってくれていたのだが、お酒が入ってきたのもあり、自分が関与したマネーロンダリングについて話しをはじめた。
当時、私はマネーロンダリングなんて言葉を知らなかった。
だから「へーそうなんですね」と頷いていただけなのだが、今考えれば、彼の話はあきらかにマネロンに該当する「所得隠し」に関係するものなんだろうと思う。
僕もかなりお酒がまわっていたのもあり、なぜ、そういう話になったのかその経緯までは覚えてない。しかし話の内容だけはぼんやり覚えている。
だから、今、こうやってマネロンが行われているという実態を、記憶を蘇えらせながら書いてみたいと思う。
1.香港にて・・・電話がなる
アジアとヨーロッパの文化が交わりあった独特の雰囲気のこの国には、見上げるほどに高い高層ビルが立ち並ぶ。夜になるとネオンがきらびやに輝きを放つ。なぜか、怪しいお金の匂いもする。
ここは、金融の街「香港」。
シンガポールと並び、世界中の富が集まるといわれる香港の魅力は何だろうか?
安くて美味しい飲茶(ヤムチャ)を食べること、立ち並ぶ高層ビルの輝く夜景を見ること、隣のマカオに一発当てに行くこと・・・きっと、どれも正解だと思う。
ただ、駐在員を除いて、香港に来ている多くの日本人は、「お金」のメリットで香港にきているに違いない。
リッツカールトン香港102階にある中華レストラン「天龍軒 」からの写真を、Facebookに投稿し、リア充をアピールをした若者がいた。香港在住のAさんである。
AさんがFacbookのタイムラインに投稿した数日後、LINE電話がかかってきたという。
電話してきた相手は、むかし一緒にビジネスをやっていた友人Bだという。最初は挨拶からはじまり、近状報告をするような普通の会話だった。
しかし話は徐々に、マネーロンダリングに流れていく。
2.銀行口座かしてくれない?
Aさんが友人Bにお願いされたのは「銀行口座をかしてくれない?」。
銀行口座を貸すことは、自分のもっている法人口座にお金を入れてもらって、後で返すという処理である。普通の人なら、この時点で怪しい話なのと、会計処理もめんどくさくなるので、話を断るはずなのだが、Aさんは快く引き受けてしまった。
当時Aさんは、一攫千金で成り上がり、税務処理などにまったく詳しくなかった。
さらにややこしいのが、このときに貸してあげると伝えた銀行口座は、ただの法人ではなく「タックヘイブンの法人口座」だというのだ。タックスヘイブンを日本語にすると「税金天国」という意味で、税金が限りなく安い地域のことを指す。Aさんタックスヘイブン地域の法人をもっていたのだ。
3.タックスヘイブンやオフショアのメリット
タックスヘイブン地域を、オフショアと呼んだりすることがある。
これらは税金が安いことで有名な地域で、この地域で法人を設立することで圧倒的に安く法人税を抑えることができる。そのため、世の中にある富(現金)の過半数はこのタックスヘイブンに集まっていると言われる。
以前、海外移住の前に!日本非居住者になる6つの税務メリットまとめの記事で、このように説明したことがある。
アメリカではヴァージン諸島やパナマ。ヨーロッパでは、モナコ、サンマリノ、リヒテンシュタインなどが有名です。身近なところでは、シンガポールや香港などは、日本の高額納税者の移住先として有名ですよね。
昨年、このタックスヘイブン地域を活用している人間がリークされ、世間を賑わせた。
カナダのトルドー首相、イギリスのエリザベス女王、歌手マドンナ、ロックバンドU2のボノ。ドラゴンボールZの鳥山明、元総理大臣の鳩山由紀夫
彼らが、このタックスヘイブンの活用しているとして世間に晒された。
なぜ、彼らがこういったタックスヘイブンを活用するのか?その理由は簡単で、
圧倒的に安く税金を抑えることができるからだ
タックスヘイブンのルールは基本的に自国通貨ではなく国外で外貨を稼ぐ必要があるからだ。
そのため、様々な国で活動するアーティスト、スポーツ選手、その他有名な著名人。アップルやアマゾンといった多国籍企業も、このようなタックスヘイブンをうまく活用して税金を節税している。
一つ注意しておきたいのは、しっかりと使えばタックスヘイブンは合法である。ただし、しっかりとしたルールにのっとってさえいればである。
4.Aさんの法人口座に毎月300万円の振り込み
話を戻しましょう。
電話の後やりとりがあり、Aさんのタックスヘイブンの法人口座には、小分けにして毎月300万円の現金が振り込まれた。
そして、いつのまにかAさんの口座には、合計数千万円近くの現金が振り込まれる。Aさんは、友人Bから振り込まれた全額分を、コンサルティングフィーという名目で請求書を発行して渡してあげた。
この時点で、架空の請求書を作成したことになるので、あきらかにAさんはマネーロンダリングに関与した意味で犯罪。
後述するが、彼が悪気がなかったとらしい。しかし、これはどうみても共犯者に該当する。
では、なぜ友人Bは、Aさんのタックスヘイブンの銀行口座をかりる必要があったのでしょう。それはいうまでもなく「利益を逃がす」ためだからです。
そしてこの行為を、マネーロンダリングと言います。
友人Bが行ったことは簡単。日本法人での利益を経費に変えたのです。
友人Bは、日本法人の利益を、必要経費という名目でAさんに請求書を発行してもらい、海外に逃しました。
そして、その後、友人Bは日本の会社を廃業し、自分は海外に身を置き、海外個人口座をつくり、Aさんに送金した数千万円分を、課税なしで受け取ることになります。
5.友人Bは日本の会社を廃業。タックスヘイブン法人を設立
Aさんの口座に着々とマネーロンダリングの現金が着金するうちに、友人Bは水面下で計画を進行していました。それが、
・「日本法人の計画的廃業」・「海外法人(タックスヘイブン)設立」
友人Bは、Aさんからコンサルティングサービスを受けている体にして、Aさんの海外法人口座に数千万円を送金した。そして決算前に日本の会社を畳み廃業する。
友人Bは会社の廃業手続きをすすめるなか、新しい会社をつくろうとしていました。それが、
海外法人設立(タックスヘイブン地域)
実はタックスヘイブン地域の海外法人は、日本にいながらでも簡単につくれてしまいます。
俗にいうペーパーカンパニー。タックスヘイブンの会社をつくったといっても、そこにはレンタルオフィスの住所が記載されているだけで、実際にそこには「人」は存在しません。つまりその実態はほぼない同然なのです。
6.友人Bは海外永住権を獲得し、口座開設
友人Bはタックスヘイブンの海外法人を設立以外に、他にも着々と準備をすすめていました。それが以下の3つです。
・海外永住権獲得・海外個人口座開設・海外移住
友人Bが目をつけたのは東南アジアの「フィリピン」と「タイ」です。
実はこの2つの国は「金」で永住権が買えます。
フィリピンでは、投資家ビザ、リタイアメントビザがあり、永住権を獲得する日本人は多いです。
タイでは「タイエリートカード取得(永住権)」を取得することで、リムジンつきの送迎がついて永住権を獲得できます。
この2つを獲得することで、簡単にフィリピンとタイに永住的に住めるようになります。
当然永住権があれば、フィリピンとタイに個人バンクの口座を開設することができます。他にも物件の契約や、ドライバーライセンスの取得権利があります。
この永住権を活用して友人Bは海外に身を置きます。海外に移住することで日本非居住者になりますから、日本の税務からは一切足を洗うことになります。詳しくは以下のページで分かります。
7.友人Bの高度なマネーロンダリング戦略
ここで、友人Bのマネーロンダリング戦略をまとめましょう。
・1:日本法人の利益をAさんのタックスヘイブン口座に送金
・2:日本法人の計画的廃業
・3:タックスヘイブンの海外法人設立
・4:永住権取得
・5:個人バンクの開設
・6:海外逃走
・7:現金を受け取る
順番に見ていきましょう。
(1):日本法人の利益をAさんのタックスヘイブン口座に送金
友人Bは日本法人の利益をAさんの海外法人に逃します。処理はコンサルティングを受講したという経費です。
(2):日本法人の計画的廃業
決算前にほぼ利益がない状態で、会社を計画的に廃業。
(3):タックスヘイブンの海外法人設立
その間、自分も海外法人設立(タックスヘイブン地域)。タックスヘイブンの会社設立は、日本にいながらでも出来てしまうのが実態です。
(4):永住権取得
友人Bはタックスヘイブンの海外法人設立の他に、「フィリピン永住権」 & 「タイエリートカード取得(永住権)」を取得。これでフィリピンとタイに住めるようになります。
(5):個人バンクの開設
永住権があることは、「フィリピン」と「タイ」に個人口座を開設することができます。それぞれの国に普通に個人で口座を作成します。
(6):海外移住
そして友人Bは海外に身を置きます。もちろん日本非居住者になり、住民税や社会保険料といった税金はすべてなくなります。
(7):現金を受け取る
Aさんに送金した現金を、海外で受け取ります。
8.4ヶ国間をまたぐ、悪徳マネロンの実態
上の1〜7のプロセスで、友人Bはどのようにお金を送金したのか?
その4ヶ国間、4通貨をまたいだ、マネーの流れをおってみましょう。
・ Bさんの日本法人利益 ⇒ Aさんの海外法人
・ Aさんの海外法人 ⇒ Bさんの海外法人(新開設)
・ Bさんの海外法人 ⇒ Bさんのフィリピン個人口座(新開設)
・ Bさんのフィリピン個人口座 ⇒ Bさんのタイ個人口座(新開設)
・ Bさんのタイ個人口座 ⇒ ATMで引き出し
最終的には友人BはタイのATMで、マネーロンダリングした現金を普通に受け取ります。
見てのとおり、4ヶ国をまたぎ、通貨を日本円、USドル、フィリピンペソ、タイランドバーツという4通貨にトランザクションしていることになります。
日本では法人税を支払ったあとに、累進課税にのっとり、最高税率55%以上が適応されます。つまり、ある程度の所得を得るためには、利益の半分以上を税金として納める必要があります。だから友人Bが行ったのは、日本の税金逃れ。
友人Bは、日本で稼いだ現金を悪徳に海外に流し、そのマネーを為替手数料と送金手数料だけで受け取っているわけですから、これは完全なマネーロンダラーで、犯罪者です。
これが高度なマネーロンダリングのスキームだということは言うまでもありません。
8.マネーロンダラー友人Bと、香港在住Aの関係
Aさん当時20代、何も知らなかったといいます。
決して悪気があったわけではなく善意だった。一度口座を貸してあげると言ってしまった手前、後には引けなくなったことを後悔していました。その後、Aさんは友人Bとは連絡をつかなくなり、無駄にお金を動かしてしまったため、色々と手間なことになったと話しています。
とはいっても、架空の請求書を発行した時点で、彼は共犯者なのでしょう。
Aさんが、今どこで何をしているのかは知りません。もし、彼が関与の疑いで追われたときは逮捕対象になるでしょう。
現状、日本の国税や警察が国外の人間を取り締まることは難しいのでしょうが、裏ではしっかりマークしているはずです
日本発のマネーロンダリング事件といわれる「カシオ詐欺」。
1997年〜1998年に、CASIO(カシオ)の融資部の社員が120億円を海外に不正流出させた事件があります。刑事告訴された社員は国外を逃走した後、こっそり日本に帰国し2005年に逮捕されています。
もし、Aさんや友人Bが日本に帰ってきて、その所在がハッキリとしたのなら、警察や国税が追ってくる可能性はないとはいえません。それが5年前のことでも、10年前のことでもです。
9.億り人とマネーロンダリング
今、仮想通貨の影響で、億り人と言われる「億万長者」がたくさん誕生している。
その裏では、なんとか節税したいと思う人が多くいるようで、海外のタックスヘイブン仲介会社には、今たくさんのお問い合わせがあると友人が教えてくれた。
タックスヘイブンを誘致する側の人間からすれば、なんとかユーザーに有利なスキームを組むことで、多くの法人を設立したいと思っている。
逆に国税としては、この仮想通貨のブームを見逃さないだろう。なぜならこんなに税収をとれるチャンスはないからだ。
これから仮想通貨に対して、どのように法律が立案され改正されるかは分からない。しかし、いつの時代も変わらないルールがある。
ルールをつくる者が有利になるように、ルールは作られる。
そして、いつの時代もルールの抜け穴を探し、うまくすり抜けようとする人が一定数いる。ルールをかいくぐれば得をするからだ。
目の前にそういうチャンスがあると知ったとき、人間は損をしないように行動する。黙ってルールを通りに生きているだけでは、損をする一方だ。
そうやって、お茶の間でテレビしか見ない弱者は、知らないところで損をする。
彼らはチャンスさえも気づかない。チャンスを知ろうともしない。
ただ増え続けていく税金にも、何も言わず従うしかない。
しかし、国にとって都合が良いルールに高額納税者は黙っていない。
そしてタックスヘイブンは利用され続け、
大金を運ぶマネーロンダラー達が、今日も香港の街に訪れる。